入浴介助は、介護の仕事を始めたばかりの方にとっては大変な仕事ですが、スムーズにできるようになれば、先輩の介護員からは頼られるようになるし、利用者さんからも喜ばれ、コミュニケーションも上手に取れるようになります。
今回は、これから介護の仕事を始めたい方や働き始めたばかりの方に向けて、介護施設のスタッフが押さえておきたい現場で役立つ入浴介助の基礎知識やコツについてまとめてみました。
入浴介助のコツを解説します!
まずは入浴介助の目的を知ろう!
介護の現場における入浴介助は、ただお風呂に入れれば良いと言うわけではありませんし、しっかりとした目的や意味があります。
まず入浴介助の一番の目的は、利用者さんの体を清潔に保つことです。
何を当たり前の事を言ってるんだと思うかもしれませんが、介護の現場では、施設によって違いはありますが、毎日全員がお風呂に入浴できるわけではありません。
家で生活していれば毎日お風呂に入るという方も多いと思います。
それが毎日入れないのですから、もちろん体は不衛生になりがちです。
それから、体を温める事により、新陳代謝を促進し、健康的な体を維持すると言う意味もあります。
そして、入浴する事により、気持ちが安心して夜ぐっすりと眠れるという効果にも期待できます。
入浴介助は利用者さんの全身をチェックする場でもあります。
何も考えずにザブザブお風呂に入れるのではなく、体にアザは無いか、擦り傷や切り傷は無いか、褥瘡(じょくそう)は無いかなどしっかりとチェックしましょう。
入浴前の準備
入浴をする前にもしっかりとした準備があります。
ここを怠ると思わぬ事故などが起こる危険性もあるので、手を抜かずしっかりとした準備をする事を忘れないでください。
施設によっては若干違いはあると思いますが、今回は入浴介助の基本の準備を紹介します。
脱衣所と浴室の温度を22度から25度に設定し、他の部屋との温度差を少なくする
冬や寒い地方でよく見られることですが、暖房のある部屋と暖房のない脱衣所や浴室との温度差が10℃以上になることがよくあります。
このような環境では、暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室に移動し、その後に熱い浴槽に入るといった、通常の動きの中で急激な温度変化が短時間で何度も起こります。
これにより、血圧が急激に上下することがあり、これを「ヒートショック」と呼びます。
ヒートショックは体に大きな負担をかけ、冬や寒い地方での入浴中に起こる突然死の大きな要因となるため、普段過ごしている部屋と脱衣所や浴室の温度差には十分に注意してください。
あらかじめ排泄は済ませておく
介護施設では認知症の利用者さんが相手なので、どうしても体を洗っている最中や、浴槽内で排泄してしまう事もあります。
なので、入浴前にあらかじめ排泄を済ませておく事で入浴介助がスムーズに進みやすくなります。
バイタルチェックをする
入浴前に体温測定、血圧測定などのバイタルチェックは欠かせません。
いつもの血圧とかけ離れた高い血圧の状態でお風呂入れてしまったり、発熱している状態でお風呂に入れてしまったりしたら最悪の事態になりかねません。
バスタオルやオムツ、着替えなど必要な物を準備しておく
これも当たり前と言えば当たり前ですが、かなり大事なことで、「あ、靴下が片方だけ無い」とか「長袖シャツだと思って持ってきたら半袖シャツだった」ということが介護の現場では結構あります。
このような場合、入浴介助の途中で忘れてしまった着替えや物品を取りにいかなければいけなくなるので、利用者さんを脱衣所や浴室で一人で待たせてしまうことになります。
そうなってくると、介護員がいない間に転倒していたり、浴槽内で溺れていたりと言った事故が発生するリスクが高まりますので、絶対に利用者さんを一人きりにしないように必要な物はあらかじめ忘れずに準備しておきましょう。
お湯の温度は38度〜40度に設定しておく
中には熱いお風呂が好きな利用者さんもいらっしゃいますが、高齢者の体に熱いお湯はかなり負担になります。
基本的には40度位に設定しておき、夏場や血圧が高い人が入浴する際は38度位に設定しておきましょう。
入浴中のポイント
ではここからは入浴中のポイントについて解説していきます。
滑りにくいイスに座ってもらい、手すりやひじ掛けにつかまってもらう
認知症や様々な障害のある利用者さんは、体のバランスが上手く取れなかったり、介護員が予期せぬ動きを突然することがあります。
その予防として滑りにくいイスに座ってもらい、手すりやひじ掛けにつかまってもらう必要があります。
足元からゆっくりシャワーでお湯をかける
いきなり頭や胸など、心臓に近い場所からお湯をかけてしまうと、心臓に負担がかかり予期せぬ事故が起こる危険性があります。
足元からゆっくりとお湯をかけていき、体を慣らしましょう。
体が温まったら頭を洗う
体が温まったら次は頭を洗います。指の腹の部分で適切な強さで洗っていきます。
シャンプーは流し残しの無いようにしっかりとすすぎましょう。
洗う強さや痒い所が無いかなどの声掛けも忘れないように
体を洗う
この時に、利用者さんの全身をチェックし、アザや、切り傷擦り傷、褥瘡などが無いかチェックしましょう。
脇や乳房の下、肘や膝の内側などの汗のかきやすい場所、陰部や臀部周辺は特に丁寧に洗います。
丁寧に洗わなければいけないのですが、高齢者の皮膚は若い人に比べて弱いので、あまり力を入れてゴシゴシ擦ると内出血したり、表皮剥離(ひょうひはくり)したりする事があるので適度な力加減で優しく洗いましょう。
それと、陰部や臀部周辺は排泄物で汚れている事があるので一番最後に洗うのが基本です。
浴槽に入る
浴槽に入る際に片足を上げなければいけないので、足の筋力が衰えてきている高齢者の方は恐怖を感じることもあるようです。
そのため、「私が支えているので大丈夫ですよ」などの声掛けをしながら、浴槽に入るサポートをすることが大切です。
声掛けによって不安が取り除かれ、安心して浴槽に入ることができるようになります。
お湯に入っている時間は長くても5分程度
入浴はリラックスできる反面、高齢者の体には負担がかかります。
血圧の急激な変化や、のぼせてしまうなどの危険性もあるので、長くてもお湯に入っている時間は5分程度にしましょう。
浴槽から出る際は体を支えてあげる
浴槽から出る際も入るときと同じように声掛けをしましょう。
体を支えてバランスを取りながら、ゆっくりと出ましょう。
入浴後のポイント
入浴が終わっても入浴介助が全て終わったとはまだ言えません。
入浴後のケアもしっかりと行ってようやく入浴介助終了となります。
頭や体をバスタオルで丁寧に拭く
ここでしっかりと水分を拭き取っておかないと、せっかくお風呂に入って温まった体が湯冷めしてしまう可能性があります。
丁寧に水分を拭き取りましょう。
着替えのサポート
もし、自分で着替えることができるのならできる所は見守るだけでOKですが、麻痺などがある場合は手を貸してあげましょう。
ちなみに、麻痺がある場合の介護の更衣介助(着替え)の基本は、着患脱健(ちゃっかんだっけん)といい、服を着る時は麻痺のある方から着せて、脱がすときは麻痺の無い方から脱がすと言った方法があります。
この方法をすることによって介護員は服の着脱がしやすく、利用者さんに負担もかかりません。
水分補給を忘れずに!
入浴後は若い人でも体から水分が失われますし、高齢者であればなおさら脱水症状を起こす危険性もあります。
ですので、入浴後の水分補給は忘れずに必ず行いましょう。
入浴介助は利用者さんとの大切なコミュニケーションの場
日本人は基本的にお風呂が大好きで(稀に嫌いな人もいますが)、介護施設にいる利用者さんもお風呂に入れることがわかるととても喜んでくれます。
もちろん入浴介助中は介護員のスキル次第で不機嫌になってしまう事もありますが、上手に介助できるようになれば、利用者さんは心からリラックスし、自分が若かった頃の昔話などをとても楽しそうに語ってくれることもあります。
普段は無口で頑固な人でもお風呂に入ると何故かニコニコして饒舌になり、びっくりすることも!
なので、入浴介助は頭を洗ったり、体を洗ったりというだけでなく、コミュニケーション能力もとても大事で、利用者さんとの信頼関係を築く大事な時間なんです。
仕事が忙しいからと言って次々と利用者さんをお風呂に入れるのではなく、「あなたがお風呂の当番で良かった」「あなたがお風呂当番だといつも楽しい」と言ってもらえるように利用者さんとの会話も楽しみましょう。
介護の現場で役立つ入浴介助のコツまとめ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
では最後におさらいもかねてここまでの要点をまとめていきたいと思います。
- 入浴介助の一番の目的は、利用者さんの体を清潔に保つこと
- 体を温める事により、新陳代謝を促進し、健康的な体を維持すると言う意味や、入浴する事により気持ちが安心して夜ぐっすりと眠れるという効果にも期待できる
- 入浴前の準備
・脱衣所と浴室を22度〜25度に温めておき、他の部屋との温度差が無いようにしておく
・あらかじめ排泄は済ませておく
・バイタルチェックをする
・バスタオルやオムツ、着替えなど必要な物を準備してお
・お湯の温度は38度〜40度に設定しておく - 入浴中のポイント
・滑りにくいイスに座ってもらい、手すりやひじ掛けにつかまってもらう
・足元からゆっくりシャワーでお湯をかける
・体が温まってから頭と体を洗う
・浴槽に入っている時間は長くても5分程度
・浴槽から出る際は体を支えてあげる - 入浴後のポイント
・頭や体をバスタオルで丁寧に拭く
・着替える
・水分補給 - 仕事が忙しいからと言って次々と利用者さんをお風呂に入れるのではなく、「あなたがお風呂の当番で良かった」「あなたがお風呂当番だといつも楽しい」と言ってもらえるように利用者さんとの会話も楽しむ
いかがだったでしょうか。
ざっとポイントをまとめてみましたが、この通り入浴介助は気を付けるポイントが沢山あります。
確かに最初は大変かもしれませんが、一つ一つに気を配り、事故に気を付けて利用者さんとの楽しい時間を過ごせるようになると、介護がもっと楽しくなりますよ。